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「それで、何に悩んでんだ?」
丸米は俺の左の席に座りながらそう言った。池面は俺の右側で机に腰かけ、スタイリッシュに足を組む。
三人とも俺のために……。熱い友情に感激しつつ、しかしこれから先に進むには彼らの覚悟を確かめなければならない。生半可の気持ちじゃ、この衝撃に耐えきれないはずだから。一度、咳払いをした。
「……お前ら、一生背負っていく覚悟はあるか?」
逃げるのなら今のうちだ。いや、俺はこいつらに逃げてほしい。俺と同じ道を歩む必要はないんだ。そういう思いを込めて、深刻な雰囲気を出した。それなのに委員長は、そんな俺を鼻で笑うんだ。
「山本、俺たちがそんなヤワに見えるのか?」
委員長だけじゃない。丸米も池面も、不敵に笑う。
「お前ら……。ったく、どうしようもねぇ友達を持ったもんだぜ」
思わず目頭が熱くなる。でもこんなところで止まっていられない。問題はこれからなのだから。
「……よし。じゃあ、……驚くなよ」
俺は机の横に掛かっているカバンを取り出す。そしてファスナーをゆっくりと開ける。俺の一挙手一投足に三人の視線が集まっているのが分かる。緊張して震えそうになる手を抑えて、カバンの中に手を入れた。教科書、筆箱をたどり、そして目当ての物に触れる。
深く息を吐き出し、もう一度自分に落ち着くように言い聞かせる。大丈夫、今の俺は一人じゃなに。そう、俺にはみんながいるんだ。
「……今朝、これが俺の下駄箱に入っていた」
机の上に、リボン付きで丁寧に包装された箱を置く。カバンを床に下し、三人の表情を伺う。彼らの反応は、然して俺の予想した通りであった。
「なん……だと!?」
丸米が三人を代表して、いや、俺の心情まで代弁していた。まさにその通り、困惑そのものがここにはあった。
震える声で委員長が、しかしたった一言で、この状況の全てを説明した。
「……バレンタイン、チョコレート」
「その通りだ」
俺はその言葉を肯定し頷く。そして次なる者に視線を移す。
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