お姫さまとチョコレートの精 1

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お姫さまとチョコレートの精 1

「どうしましょう……」  広大な城の片隅の、西の塔。その小さな厨房から、可憐な声がきこえてくる。 西の塔の一階にあるその厨房は、かつては戦などの有事の際に使われていたが、今はもっぱら王や姫に用意するお茶やお菓子のために利用されることがほとんどだ。 せまい室内の中央におかれたテーブルのうえに、まるい形の小さな菓子がのっている。ついいましがた出来上がったばかりなのか、またほんのりあたたかく、やわらかい。こげ茶色のその塊は、かぐわしい甘い匂いを放ってつややかに光り、たいそう美味しそうに見えた。 そんなすばらしい菓子を前に、さきほどから一人の少女が悩ましげにためいきをついていた。この国の姫、エリカ王女である。 女性というにはまだいくぶんあどけなさが残るものの、幼いというほどでもない。御年17才になられたばかりの、花のように美しい姫君である。  王女は台の横の小さな丸椅子に腰かけ、長いこと自らの手で作り上げた菓子を見つめていたが、やがて小さく首を振り、菓子を小箱につめこんでフタをしめると、悲しげに瞳をふせて、それを暖炉に投げ入れようとした、そのとき。 「お待ちください」     
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