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魔法のチョコレート、というものがあるらしい。食べると、その人を意のままにすることができるのだそうだ。
どこそこの公園で売っていたとか、屋台の縁日で見ただとか、実はチョコレートとは名ばかりの、怪しいおクスリの隠語なのだとか、様々な噂があるのは、私も知っていた。
勿論、本気にしたことはない。小・中学校の時ならいざ知らず、高校にもなればある程度世の中の仕組みが分かってくる。どうせどこかのメーカーが、自分の商品を売りたいがために流したデマでしょう、と、そんな風に思っていた。
だからその看板を見たときに、私は思わず笑ってしまったのだ。
街がチョコレート一色になる、二月の初め。私は百貨店の特設チョコレートコーナーを見て回っていた。赤にピンク、ときどき白。至る所にハートの装飾が飛んだ会場内は、ものすごい熱気にあふれている。
彼のことが好きだ。そう自覚したのは、もう随分と前だった。今まで行動を起こせなかったけれど。来年度になれば、学校は一気に受験モードに入ってしまう。後悔したくはなかった。だから、今年のバレンタインは、チョコレートを渡すと決めたのだ。
――陽子も、絶対大丈夫って言っていたし。
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