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親友の顔を思い浮かべて、私は、くすりと笑った。
だからこそ、というのも変な話であるが、今年のバレンタインデーだけはなんとしても、彼の心をつかんでおきたいのだ。
その熱意でもって、あれでもないこれでもないとフロアを見て回っていた私は、ふと視界に違和感を覚えた。
何だろう、何かがおかしい。
違和の正体は、すぐに分かった。
百貨店のワンフロア、ひしめき合うようにして並ぶ店と店の間に、小さな店が出店していた。その前だけ、人がいない。まるでそこだけ人の流れから切り取られたかのように、ぽかりと空間が開いている。
気になって、そっと近づいてみる。
背の低い白のカウンターに、売り物らしき物が置かれているだけの、シンプルな店構えだった。端に置かれた小さな立て看板には、手書きで何やら書きつけてある。売り物のチョコレートの情報のようだ。
店員は一人。
男の人だ。清潔感のある白のシャツに、黒のエプロンを着けている。
いや、そんなことよりも……。
「魔法のチョコレート!?」
思わず、声を挙げた。立て看板の文字を、もう一度なぞるようにして読む。間違いない。確かにそう書いてある。
「ええ、そうです」
涼やかな声で、店員は頷いた。
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