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手のひらに、ころん、と、落とされる。丸い。少し大きめのビー玉か、スーパーボールくらいの大きさである。表面はつやつやとしていて、滑らかで、のぞき込んだ自分の顔が丸く引き延ばされて映っている。
身振りで食べるように示唆されて、私はおそるおそる一口齧った。
かしゅり、と砕ける感覚。
形からして、中には濃厚なガナッシュか、そうでなければとろりと芳醇なリキュールが入っているものだと思っていたのだけれど。
空らっぽだ。
丸いチョコレートの中には、ただただぽっかりと空間が開いている。
思わず店員を見やった。彼は悪戯の成功した少年のように、してやったりという顔を隠そうともしなかった。
なるほど、そういうことか。いわゆるドッキリチョコレートなんだろう。
魔法のチョコレートというネーミングも、名前で期待させて、食べてがっかりさせるためにワザとつけたに違いない。
「どうです? びっくりしたでしょう」
更に言葉を重ねる店員に、少しだけ苛立ちを感じた。こんなことをしている時間も勿体ないし、これ以上付き合うのも馬鹿馬鹿しい。軽口に乗る気にもならなかった。
「ああ、待ってください、お客様」
誰が待つものか。私はくるりと後ろを向いて、店から離れようと足を動かした。
その時。
私は確かに帰ろうとしている。この場を立ち去ろうとしているのにも関わらず、足が言うことを聞かない。
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