後悔

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「原発のことは話しませんでしたが……」 朱音がいった。その視線は、線香の煙を追っている。 「使用済み核燃料の保管方法について語ったことがあります」 「そ、そうなんですか?」 岩城はあまりにも自分の意に添う話に、夢を見ているのではないかと思った。廃炉作業が始まり、すでに20年の年月が過ぎたが、大きな問題に直面していた。 一つは、使用済み核燃料と解体した原子炉の廃棄物の保管先だ。それが決まらなければ解体した原子力発電所の敷地は、結局、使用済み核燃料と高放射性廃棄物の中間保管施設として半永久的に利用され続けることになる。 二つ目は、メルトダウンして溶け落ちた燃料デブリの回収方法のめどが立たないことだった。ロボットで炉の解体と燃料の回収を検討していたが、電子部品は放射性物質がつくる強磁場に弱い。おまけに上部から露天掘りのように解体することになるが、その過程で汚染物質が空気中に拡散してしまうのだ。特に基礎のコンクリート部分に溶けて食い込んだデブリは、遠隔作業で回収するのは難しすぎた。 最悪なことに、核攻撃があり、新たにメルトダウンした原子炉が倍にも増えた。そこへは、近づくことさえ難しい。 「廃炉作業のテレビ番組を見ていた時です。岩盤の不安定な日本国内で、地層処分するのは難しいだろう、と言っていました。安定した管理をするなら、岩盤より地下水脈の方が低コストで安全を確保できるはずだと。廃棄物を容器に密閉して、水脈に沈めてはどうだろう。そう言っていたと思います。私が記憶しているのはそれだけです」 「そうでしたか。水脈ですか」 岩城は千坂の遺影に手を合わせた。
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