18人が本棚に入れています
本棚に追加
「千坂は、いつも未来のことを考えていた。SF作家だから当たり前だと人は言うけれど、それは逆だと思う。彼には考える理由があった。千坂はあの日、放射性熱傷を負い、ひとり、出口の見えないトンネルをさまよっていたのだから。彼はその傷で未来を失った。子孫を残す能力は失っていたし、自分の命だって、いつ失うのか分からなかった。だから彼は、未来を考えた。彼は、私を導くために作品を書き続けた。彼は、幸せだったのか……、私には、良く分かりません」
朱音は大粒の涙をこぼし、泣き崩れた。
「子供を残す力がないって?」ヒソヒソと話す声があった。
「もういい」
哲明が朱音の肩を抱いた。
最初のコメントを投稿しよう!