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「どうかしましたか?」
眠った遼平を抱いた哲明がやってきた。一介の科学者に過ぎない娘に向かって、白石と岩城が頭を下げた姿勢を崩さない様子に異様なものを感じたからだ。
「人工出産システムを開発したころ、千坂は私をゴッド・サイエンティストと呼びましたが、本当はマッド・サイエンティストだと言いたかったのだと思います。そう言わなかったのは彼の優しさもありますが、あの時、千坂はそれが必要悪だと考えていたと思うのです」
朱音が話しはじめると、白石と岩城は手をついたまま顔だけを上げた。
朱音は、2人の顔を見ながら考えた。今さらいい子ぶることは無い。他人に好かれようとは思わない。それでも、超えてはいけない一線がある。越えなければ変えられないものがあることも分かる。その判断は、すでに科学の領域にはないことだ。政治や倫理、神学の話になる……。
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