6 揺れて転んで

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お蔭で昼も近くなってくると、 暢気にランチをどうしようかなぁ、などと考え始める。 その時、 「豊田さん、今日の昼飯は決まってるの?」 ふと背後で人が動く気配がすると同時に、不意に福澤から声を掛けられた。 「いえ、別に……」 「俺さ、地下の『鶏よし』の親子丼割引券持ってるんだけど、一緒にどう?」 確かに、あの店の親子丼は美味しいし、 時々ランチをする仲良しの同期も、夏休み。 それに、彼がランチに誘ってくるのも珍しくはない。 その上、会議へ向けての仕事の進捗具合も聞きたいと言われ、 私も、すんなり頷いた。 ところが、そうして同じビルの焼き鳥屋で向かい合うなり、 いきなりの直球が飛んできた。 「そういえばさ、今でも自主トレってしてるの?」 別に、厳しい面持ちで尋ねられた訳ではない。 しかし、なんとなく私の中で小さな警戒が顔を上げる。 だから一瞬、素直に答えるべきかを迷った。
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