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イチジクは許せなかった。少女を攫ったあの女をだ。
(なぜテレーゼを奪ったのッ!?)
その疑問が半鐘のように頭で鳴り響き、完全にパニック状態だった。少女が自分を呼ぶ叫びが、まだ耳にこびりついている。わたしを助けてと叫ぶ声が。
「テレーゼを助けに行く! きっとまだ生きている!」
ほとんど確信に近い使命感が彼女を突き動かした。じっとしていられない。早くテレーゼを助けないと赤い魔女が何をするのか、と想像するだけで絶叫しそうになる。
「待ちたまえ!」冬馬が制止した。「きみはどこへ行くつもりだ?」
「あの女を追いかけるのよ!」
なぜこの男は親でありながら冷静でいられるのか、と責める口調で言い返した。大事な仲間が攫われて落ち着いていられるものか。その刹那の思考で、はっと我に返った。
(あたしはテレーゼを仲間だと思っているのか?)
大事な仲間であり、娘のようにも思う自分がいる。それは孤独であった彼女にとって、はじめて湧いた複雑な感情であった。
「イチジクさんは1人で“敵”と戦うつもりですか?」
鳥嶋が言いきかせるように肩をつかんだ。1人では無謀な戦いだと、ふだん穏やかな眼で訴える。
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