第4話「されど故郷は遥かになりて」

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 収容者の体をまっぷたつに裂いて生まれた〔影〕の成虫が、巣に迷いこんだ獲物を睨めつける。  てらてらと黒い光沢の頑丈な外骨格を怒らせ、昆虫の蜂のごとき頭部には恐ろしげな複眼をそなえ、その下方には獰猛な大顎が巨大なギロチンのごとく刃を光らせた。  それは漆黒の巨大蜂に酷似した悪夢世界の捕食者(プレデター)であり、さしずめ凶暴な〔殺戮の影(シャドウ・マーダー)〕と名づけようか。  甲高い咆哮をあげて〔殺戮の影〕が威嚇するが、それは群れなす彼らだけの特権ではなかった。対して、いかにも脆弱な人間たちも戦闘態勢で対峙したのだ。 「雄雄雄ォォ──!」  武装解除した碇が雄叫びを放った。  ホログラム変異で実体化したのは、巨大な攻防一体の武器である盾槍だった。敵の攻撃を防ぐ巨大な盾の中央に、鋭く長い槍が突起して備わっているものだ。  迫りくる〔殺戮の影〕の攻撃を強固な盾で防ぐと、その長大な槍で大木をへし折るように薙ぎ払った。  にもかかわらず、些かも気圧されず攻撃本能のままに〔殺戮の影〕が押し寄せる。 「まだまだァ──!」  武装解除した照屋が追撃の叫びをあげた。
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