第4話「されど故郷は遥かになりて」

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 ホログラム変異で実体化したのは、巨蛇のごとくうねくる変幻自在の仕込み鞭だった。長い鞭の側面にチェンソーの刃が旋回する仕掛けで、鋼の刃が轟く蛇腹をきらめかせて〔殺戮の影〕を斬り裂いた。  碇が敵の攻撃を一手に盾槍で防ぎ、照屋がその背後から仕込み鞭で〔殺戮の影〕を蹴散らすコンビネーションだ。  それでもなお多勢に無勢で、盾槍と仕込み鞭をかいくぐり〔殺戮の影〕の大群が殺到した。 「くっ、突破されるッ!?」  イチジクは腕に描いた剣に触ろうとすると、 「ぼくに任せてください」  鳥嶋が横から割ってはいった。  先ほど腕に施してもらった弓を実体化させると、ぎりぎりと矢をつがえて狙う。その矢はシェークスピアの言葉“臆病者は死ぬ前に何度も死ぬ”であった。その言葉の矢を射ると碇と照屋をかすめて、〔殺戮の影〕の眉間に突き刺さった。  たちまち苦痛の絶叫をあげる異界の巨大蜂。それでもわらわらと追いすがる〔殺戮の影〕に、鳥嶋は矢継ぎ早に言葉の一矢をむくいる。 「やるじゃないか鳥嶋!」 「先生のお陰ですから」鳥嶋が不敵な笑みで応えた。
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