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攻撃に転じながらも東棟の回廊に入ろうとすると、〔殺戮の影〕の動きに変化が生じた。一定の距離を置きながら、がきがきと大顎で擬音をまくしたてるのだ。
「何だか……様子がおかしいね」
まるで降伏を勧告するような敵の動きに、イチジクは鼻白むように呟いた。
「にらめっこかよ?」と、碇が訝しむ。
「いいから、下がるんだよ」と、照屋が叱った。
すると、〔殺戮の影〕の壁が真ん中からまっぷたつに割れた。異形の花道をとおって、何かがこちらに向かって来るのが見える。
「そんな……あいつらッ!?」
思わず絶望が口をついてでた。
それは四肢を切断されてもなお生かされ、〔捕食する影〕に体の内部から喰われている呑木の姿だった。
「死なせて……殺してくれよ……」
呑木が死の恩寵を乞うように、血だらけの真っ赤な口で粘る声をもらした。
だが目の前で茫然とする碇と照屋に気がつくと、芋虫のように身をよじりながら必死な眼で訴える。
「よくも……よくも見殺しに……よくも」
地獄の亡者が現世の生者を呪うかのように、武器をもつ2人を血の涙で鬼の形相となった顔で睨んだ。
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