第4話「されど故郷は遥かになりて」

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「呑木……すまねえ」  碇が慚愧にたえかねて、武器をわずかに下ろした瞬間だった。そのわずかな間隙を縫い、呑木の眼球がぎょろりと反転した途端、顔面がザクロのように爆ぜたのだ。  血霧となって飛び散った眼球や脳漿が、虚をつかれた2人の顔を派手に叩いた。 「ぐわあああぁぁ──!!」  人体爆発の目つぶしを喰らった碇の絶叫が耳を打つ。 「碇ッ!?」  照屋が眼を拭いながら驚きの声をあげる。  その視界の端を、5本指をともなった肉の塊がかすめた。肩から切断された碇の左上腕部だった。呑木の顔面を縦に裂いて、〔殺戮の影〕が大顎で噛み切ったのである。  血潮をぴゅぴゅとしぶかせながら、碇が苦痛の舞いをのたくるように踊った。 「このッ!」  すぐさま仕込み鞭を振るおうとするが、がくんと体が崩れてつんのめる。訝しむように視線を下ろした照屋が、右足の膝から下がざっくり切られていることに気づいた。夥しい鮮血の河を眼で追うと、まだ血をしたたらせる切断された足が転がっていた。 「碇いッ! 照屋あッ!」   イチジクは絶望の叫びとともに剣を一閃した。
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