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ターミルは喉を詰まらせて涙を流す愛美を見つめると自分も強く瞼を閉じていた……
短い間、ほんの少しの会話……だがすべてが楽しくて記憶に新しい…
もっとこれから──
そう思っていた矢先だったのに……
「仕方ありませんわい…マナミ様は日本人。……やはりご自分の国が恋しいでしょうからな」
ターミルはそういって満面の笑みを向けて愛美に返した。
愛美は涙に溢れた顔を上げてターミルを見つめた。太陽みたいに丸く明るい笑顔──
そして堪えた涙を啜ったせいで鼻の頭が真っ赤になっている。
愛美はその顔を見てまた涙を溢れさせていた。
自分の国に帰るという選択をしただけで、何故にもこんなに罪悪感に苛まれるんだろう──
まるで置いて行かれるようなターミルの表情に愛美は胸が締め付けられる。
「うんうん、泣かんでもよろしい……日本で元気にやってくれればそれでよろしい…っ…儂は遊びに行きますぞぃっ…ヨットコを見にっ…マナミ様に会いに行きますぞぃっ…」
愛美はその言葉に笑いながら顔を泣き崩す。
今の愛美を見ていると拐われたことに対しての恨みつらみは感じられない──
どこからどう見ても普通に親しい者が別れを惜しむ姿だ。
アサドはそんな二人の涙が落ち着くまで静かに見つめていた。
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