13人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
◇
黒川 夜緒(くろかわ やお)は、とにかく黒い。
漆黒のセーラー服に、影のようなパンツストッキング、闇を溶かし込んだような手袋。夜の帳のような頭髪は肩口で切り揃えられているものの、前髪は日本人らしい黒瞳にかかってしまうほどに長い。
学校指定の制服は仕方ないにしても、首から下の素肌が一切見えないというのはいきすぎだ。
おまけに身体の線は細く、僅かに覗く肌は白い。加えてその性質は極めて無口。まるで幽霊か妖怪変化のようなパーソナリティである。
初春である今頃の放課後、日が沈んで黄金色に染まった校庭を横切る姿は、影が蠢いているようで正直な話ぞっとする。
誰が呼び始めたのか渾名は『黒子(くろこ)』。
彼女のことをよく表しているとは思うし、悪意を以て呼んでいないとは分かっているが、銀城 志朗(ぎんじょう しろう)は決して彼女をそう呼称することはなかった。なんだか陰口を叩いているようで気分が良くなかったからだ。
彼女に用がある人間がいなかったのが原因だろうが、本人の前で口にされないのが尚更後ろめたさを助長していた。
「……黒川」
最初のコメントを投稿しよう!