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「ひぅ!」
「あ、ご、ごめん。驚かせるつもりは無かったんだ。でも……聞かせて欲しい。黒川が何と話していたのか……誰もいないこの場所で『何』と話していたのか。何をしようとしていたのか」
「あ、わ、わたし……」
「大丈夫。何を言ったって笑ったりしないし、ゆっくりで良いから」
暫くの沈黙。
無理か……諦めかけた志朗の耳に、か細い声が届く。
「し、信じられないと、思いますけど……」
そして、黒川夜緒はポツリポツリと話し始めた。
「――なるほど。黒川は物の……『影』? つまりは、負の感情が具現化して見える……と」
小さく頷く。
「それは幽霊とかそういうのとは違うのか?」
「え、えっと……多分……分からないです、けど」
「ふぅむ」
志朗は顎に手を当てる。話によれば、彼女は今桜の『影』と話していたのだという。常人である彼には全く考えも及ばない世界だ。幽霊や妖怪変化とはまた別物だということだが、正直余りピンとこない。
そもそも桜に感情があるということ自体が、志朗の常識では有り得ない。
「あの……し、信じるんです、か? こんな、馬鹿みたいな……」
「ん?」
「ふ、普通は、独り言なんて、き、きき、気持ち悪い、とか、妄想、とか」
「…………」
そう言われたことがあったのだろうか。そんな面と向かって心無い言葉に傷つけられたことがあったのだろうか。
その傷を癒やす力が自分にないのが、志朗には歯痒い。だから彼は、己の力が及ばない領域が嫌いだ。
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