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志朗はどんと胸を叩いた。彼の頭の中にある考えが本当に桜を満足させることができる保証はどこにもないが、それでも彼は精々虚勢を張った。頼りがいのある男を演じた。
何故ならそれは。
「あ、ありがとう、ござい、ます……」
「良い。手伝わせてくれて俺も嬉しい」
何故なら、それは。
「そ、そういえ、ば」
「ん?」
「ど、どうして、銀城くんは、校舎裏、に……?」
「…………」
――好きだから。
こんな一言も口にできない。志朗に『影』が出来るとしたら、きっとこの勇気の無さが原因だろう。
だがどうしてこんな事を言えようか。
校舎裏に行くから、てっきり告白でもされるのかと思ったと。誰かにとられてしまうと思ったと。こうして話せている今が、とてつもなく幸福だと。
しかし彼には一抹の不安が……『影』をつくりそうな感情がもう一つ。
「言ったじゃないか。俺、勘が良いんだよ」
この恋心は、直感が『影』に反応しているが故の錯覚なんじゃないか?
胸のざわめきは、ただ彼女にこれ以上関わってはいけないという警告なのでは?
志朗が願うとすれば、その答えだ。
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