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グレイはモーリスの消えた厨房の入り口を横目にするとまた新聞に目を移した。
静かになった居間で微かに「クスッ…」と短い含み笑いが聞こえる。ルナはその時のグレイの表情を目にして一瞬驚いた。
無表情の瞳を和らげてとても優しげな笑みを浮かべる。ルナは新聞に目を向けながら何気なく零したグレイのその素顔に胸を熱くした。
まるで、口煩いモーリスに対しての隠されたグレイの愛情を垣間見たようだった。
ルナはモーリスのことが羨ましく感じた。
孤児であったルナが一番憧れていた空間が、先のやり取りには溢れていたように感じた。
それと同時にルナの心の奥に眠っていた寂しさと人恋しさが蘇っていた。
瞳に暗い影を浮かべ、ルナは席を立つ。そして居間では一度も言葉を交わすことなく出て行くルナの後ろ姿をグレイは新聞越しに黙って見送った。
「もう食事は宜しかったのでございましょうか」
ルナの出て行った気配を感じ、厨房から顔を覗かせたモーリスは食べ掛けたラスクの残りを見て、主人の方を振り返った。
「旦那様はお腹一杯でさぞや満足でございましょうに…」
ルナを不憫に思い、モーリスは一言加える。グレイは新聞を置くと腕を伸ばして素知らぬ表情でカップを口に運んだ。
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