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タオルで身体の水気を拭き取り、全裸のままで歯を磨く。無駄な贅肉のない筋肉質で均整のとれた体型ではあるものの、何だかやる気のない陰気な顔をした青年の姿が鏡に映っていた。
洗面台の棚に適当に畳まれた下着を取り出して身につけて部屋に戻ると、脱ぎ捨ててあった部屋着を着込んで、ベッドにゴロリと横たわる。
ベッド脇で充電されていたスマホを手にしてみれば、メッセージが幾つか届いていた。発信者はどれも同じ「東條さくら」だ。
「おはよう。今日も寒いね。こっちは今日も雪が降っています」
「今日のランチはまたパスタです。ヤッキーのパスタ好きに付き合うのも大変だよ」
「やっと仕事が終わりました。芳樹はまだ仕事中だよね。あんまり無理しないでね」
「おやすみなさい。また明日」
一通りを読み終えて、また充電器に戻す。
ふう…と小さくため息をつくと、カバンの中で着信音が鳴った。
芳樹は起き上がってカバンから、先ほどのとは違うスマホを取り出した。
発信者の名前「槙島桃香」の名前が表示されていた。
「どうした?」
芳樹は通話ボタンを押して、慣れた感じで「槙島桃香」に語りかけた。
彼女は会社の後輩だ。
「あ、先輩。時間外にすみません」
芳樹は小さくため息をついた。
「何かトラブルか?」
「いえ、あの…実は個人的な相談で」
「言ってみろ」
愛想の欠片もない芳樹の言葉にもめげずに槙島桃香は話を用件を切り出してきた。
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