桜さくら

3/19
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「あの、先輩、明日って予定空いてませんか?気になるカフェがあるんすけど、一人じゃ入りづらくて」 軽く笑いながら言っているが、どことなく緊張しているのがなんとなく伝わる。 いつも明るく振る舞っているが、本当はナイーブでひたむきな彼女らしい。 しかし、それもわかった上で芳樹は冷たく断りを入れる。 「無理だな。滝沢にでも付き合ってもらえ。あいつは休みの日は、だいたい家で寝てるから」 「えー、ダメっすか。じゃあ来週とかはどうっすか?」 「悪いけど、他をあたってくれ。じゃあな」 芳樹は一方的に電話を切って、ポイとスマホをベッドに放り投げた。 「悪いな、俺のことは放っておいてくれ…」 桜の花が、一面に舞っていた。 儚くも美しい、散り行く花びらの舞。 芳樹は目を覚ました。 いつの間にか眠ってしまっていた。 また、あの夢だ。あの日の光景。 俺が、全てを捨てた日の景色… 外は抜けるような青空だった。 長かった冬もようやく終わりが近づいてきており、そよぐ風にも刺すような刺々しさがなくなっている。 道端の雑草も、心地よさそうに揺れていた。 芳樹が向かっているのは、近所にある小さな喫茶店。休みの日は、そこでのんびりと朝食を摂るのが習慣だ。喫茶店に入ると、店長が芳樹の顔を見てニッコリと微笑んだ。すっかり馴染みの客というわけだ。     
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!