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「あの、先輩、明日って予定空いてませんか?気になるカフェがあるんすけど、一人じゃ入りづらくて」
軽く笑いながら言っているが、どことなく緊張しているのがなんとなく伝わる。
いつも明るく振る舞っているが、本当はナイーブでひたむきな彼女らしい。
しかし、それもわかった上で芳樹は冷たく断りを入れる。
「無理だな。滝沢にでも付き合ってもらえ。あいつは休みの日は、だいたい家で寝てるから」
「えー、ダメっすか。じゃあ来週とかはどうっすか?」
「悪いけど、他をあたってくれ。じゃあな」
芳樹は一方的に電話を切って、ポイとスマホをベッドに放り投げた。
「悪いな、俺のことは放っておいてくれ…」
桜の花が、一面に舞っていた。
儚くも美しい、散り行く花びらの舞。
芳樹は目を覚ました。
いつの間にか眠ってしまっていた。
また、あの夢だ。あの日の光景。
俺が、全てを捨てた日の景色…
外は抜けるような青空だった。
長かった冬もようやく終わりが近づいてきており、そよぐ風にも刺すような刺々しさがなくなっている。
道端の雑草も、心地よさそうに揺れていた。
芳樹が向かっているのは、近所にある小さな喫茶店。休みの日は、そこでのんびりと朝食を摂るのが習慣だ。喫茶店に入ると、店長が芳樹の顔を見てニッコリと微笑んだ。すっかり馴染みの客というわけだ。
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