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彼女がここに居るはずはない。居るはずがないのに、それは間違いなく「東條さくら」だ。
芳樹は思わず、席を立った。
サンドイッチを作っていた店長が、少し驚いた顔をして芳樹を見た。
「あ、すぐ戻ります!」
芳樹は店長に投げ捨てるように言葉を残して、慌てて店の外へ駆け出した。
なぜ。
どうして、あいつがここに居るんだ。
追いかけるまでもなく、その若い女は、すぐ先を歩いているところだった。
「さくら!」
芳樹が声をかけると、女が驚いたように振り返った。
「あ…芳樹!?」
間違いない。さくらだ。東條さくら。
芳樹の婚約者…だった女。
芳樹の姿を見たさくらの目に涙が溢れ出した。
「芳樹…芳樹!」
「さくら…どうして…」
立ち尽くす芳樹に、さくらが駆け寄り、力いっぱいに抱きついた。
「芳樹…良かった…逢えて…」
周囲の視線も厭わず抱きつくさくらに、芳樹は少し狼狽しながら、そっと、その髪を撫でた。
「はい、ホットミルクね」
店長が優しい声をかけながら、そっとカップを置いた。
軽く会釈をして、芳樹は目の前で俯くさくらを見た。
「どういうことだ?なんでお前がここに居るんだ?」
芳樹の一つ年下のさくらは、今年で二十三歳になる。しかし、彼女の顔だちは、まるで高校生のような初々しさが残ったあどけない顔だちだった。
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