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少し潤んだ大きな瞳、やや低めの細い鼻筋、桜の花びらのような、ふわりと柔らかそうな唇。髪型も昔と変わらない黒髪のストレート。同級生の男子たちが憧れていた頃の、そして、芳樹が一方的に別れを告げたあの頃の姿のままだった。
さくらは、少し困ったように、上目遣いに芳樹を見た。
「ごめんなさい」
その眼に、また涙が溜まるのを見て、芳樹は困ったように、ポリポリと頭を掻いた。
「謝られても事情はさっぱりわからんが。お前、昨日だって普通にメッセ送ってたよな?」
「あ、見てくれていたんだ…」
嬉しそうなさくらの顔に、芳樹が気まずそうに視線を逸らす。
「まあ、一応な。それで?香奈恵とケンカでもしたのか?」
「ヤッキーと?ううん。ヤッキーはいつも私に優しいし…」
「仕事で何かあったとか」
「特にない。難しい仕事じゃないし…」
「じゃあ、なんだ?俺に遭いに来たんだろう?」
「うん…」
さくらは、言いにくそうに口ごもる。
芳樹はめんどくさそうにため息をついた。
「勿体ぶるな。わざわざ遭いに来るほどの何があったんだ?」
「あのね…昨日、お父さんから言われたの」
「何を」
「風早家と結ぶことにしたって…」
「風早家と結ぶ…聰輔と縁談になったってことか?」
「うん…」
「そうか」
芳樹は、思わず言葉を詰まらせた。
芳樹もさくらも、古いしきたりに縛られた家に生まれた。
芳樹の姓は、一条。
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