サンドイッチで朝食を

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     千草はいつもと違う馨にペースを乱され、いつもの強気な秘書を演じることを忘れていた。  会社とは違う、開放された空間だったことも要因のひとつにあるのかもしれない。  そしてその油断はすぐに訪れた。    まるで仲のいい友人同士のようなやり取りに、肩の力が抜けて、小さく吹き出してしまったのだ。   「私なんかの視線で穴が開いてたら、専務はとっくの昔に穴だらけになってますよ」  そう冗談で返しながら、千草はかざされた馨の手をそっと下ろした。    雰囲気がぐっと柔らかく変わった千草に、呆気にとられていた馨の手はあっさりと下ろされ、更にその手の向こうにあった千草の微笑みを目の当たりにしてしまった。    氷の華と呼ばれていた彼女。  彼女が秘書としてそばに就いてから二年。  見たこともない表情だった。  それは花がほころぶような可憐な輝き。  氷が溶け、内に咲いていた花が姿を見せた瞬間だった。  その瞬間を見てしまった馨は驚きのあまり呆然としてしまう。 これがあの塚本千草…?
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