53人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
そんな馨の反応に千草は居た堪れなくなる。
その場から一刻も早く離れたくて、駆け出した。
どうしよう、今まで作り上げた塚本千草のイメージが壊れてしまった。
何のために今まで…
やはり、ここに来るべきではなかった。
自分を守る鎧は思った以上に脆く、弱いものだった。
強くあるために、纏った鎧。
少しも弱さを見せてはいけなかった。
見せてしまったら一気に崩れていくようで
それなのに、一番見られたくない、気づかれたくない相手にそれを見せてしまった。
その場に残された馨は、千草が去った後でも、体制をそのままに固まり続けていた。
彼女が走り去ったことさえ気づいていないかもしれない。
それほどの衝撃だった。
千草が走ることも彼にとっては珍しいことだったが、それ以上のものを見てしまった後には何のインパクトもない。
しばらくして、ようやく呪縛が解けると片手で口元を隠し、ぼそりとつぶやいた。
「おいおい…」
そのつぶやきが、何を言いたかったのか、馨自身わかっていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!