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見かねたように口を開いたのは「啓一」だった。
「あいつとまともな会話しようとするだけ無駄だから、気にしないほうがいい。」
「え?あ、は、はい……。」
「ああいうやつなんだよ。」
それだけ言い残し、「啓一」も店の中に入っていってしまう。
―――ああいうやつ、って言われても……。
僕の理解の範疇を完全に超えてる……。
一瞬、ここでこっそり帰ってしまうのも一つの手だという思いが頭をよぎった。しかしそんなことをして、後でどうなるかを考えるとぞっとする。さっきのあの怖い笑顔で見下ろされ、優しい声で「なんで勝手なことしたの?」なんて聞かれるかと思うと膝が震えてきた。
―――逃げたら、きっともっと怖い。
自分にそう言い聞かせて店の中に入った僕は、カウンターで注文をしている「冴」と「啓一」の後ろにそっと立った。僕に気が付いた「冴」はメニュー表を指差して言う。
「ねえ、君はなに頼む?」
「あ、ぼ、僕は……。」
―――どうしよう、こういうところ来るの久しぶりだ。
なにを頼めばいいのか全然思いつかない。
「あ、えっと……。」
―――二人は何を頼んだんだろう?
二人が頼んだものより時間がかかるものを頼んだりしたらイラつかれないだろうか?
セットメニュー、夕方限定メニュー、学割メニュー、期間限定商品……。
飲み物だけ?
それとも、なにか食べたほうがいいの?
ああ、どうしよう。
こうして悩んでいる間も、二人を待たせている、
どうしよう。
どうしよう。
「なんだなんだ、そんな深刻に悩むところー?」
くすくす笑った「冴」は僕の背中をとん、と優しく叩く。てっきり怒られるかと思っていたところでそんなふうに優しく触られるなんて想像もしていなかったので、僕は言葉に詰まってしまう。
「飲み物、炭酸とジュースとコーヒー、どれがいい?」
「あ……えっと、じゃあ、ジュースを……。」
「じゃあオレンジジュース一つ、Mサイズで。腹減ってる?」
「い、いえ、そんなに……。」
「ポテトのSサイズくらいなら食べられる?」
「あ、は、はい。たぶん……。」
「じゃあそれお願いしまーす。」
店員さんに注文を伝えた「冴」は僕に自分の鞄を押し付け、二階に続く階段を指差した。
「席とっておいて。」
「あ、でも、お金、」
「後でちょうだい。もちろん、君の分だけね。」
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