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驚く僕ににっこり微笑みかけてから、白金君はさらに言葉を続ける。
「あの三人組にでも言われたんじゃない?俺のことからかってこいって。嵐山が俺としゃべってる間ずっとスマホが通話状態になってて、その通話相手はあいつらだったしね。離れたところで様子見てにやにやしてたんだろ。」
「なんだそれ。」
呆れ顔の本郷君は、話の正誤を確かめるかのように僕に視線を向けたが、僕はその視線を受け止められずに顔を伏せてしまった。
それを見た白金君は真剣な表情になって、僕の方に身を乗り出してくる。
「ただ無理難題を押し付けられてるだけじゃないよね。」
「っ……。」
「その顔の傷とか、手首の傷もあいつらにやられた?」
「…………こ、これは……。」
「親?」
「ち、違います!まさか!」
「じゃあ学校のやつらじゃないの?」
白金君はなにも言えずに俯く僕をじっと見つめていた。たぶん僕が口を開くのを待っていた。
苛立ちを表すこともなく静かに待ってくれる人なんて、もうずいぶん長いこと僕の身の回りにいなかった。みんな僕が何か言う前に殴ったり、蹴ったりする。それが体に染みついているせいで、無意識のうちに「喋る」ことよりも「殴られた時に備える」ことの方を優先してしまう。そうやって口下手になればなるほど、周りの人間は僕に苛立ち、攻撃してきた。
しばらく沈黙が続き、とうとう本郷君が口を開いた。
「食いながら考えまとめたら?冷めるとまずくなるだろ。」
「あ……はい。」
素っ気ない言葉だったが、別に怒っていたりいらいらしていたりするわけではないことは穏やかな声から分かる。白金君は二つ目のハンバーガーをかじりながら、相変わらずじっと僕を見ていた。本郷君はそんな白金君を小突き、「落ち着いて食べさせてやれ」とたしなめる。
冷めつつあったポテトを食べながらそんな二人のやりとりを眺めていると、中学時代のことを思い出した。まだ僕が「友達」としてみんなに受け入れられていた頃のことだ。ほんの数年前のことなのに、なんだかそれが信じられない。ほんの数年前まで僕はずっと問題なく生きてきた。普通に笑って、普通に泣いて、普通に友達と遊んで、普通に喧嘩もした。そして普通に人を好きになった。
ただ、好きになった相手だけが「普通」じゃなかった。
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