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「……人を好きになることは悪いことなんでしょうか。」  気が付いた時にはそんな言葉が口をついて出ていた。言ってしまってから後悔したが、一度こぼしてしまったものは戻せない。白金君と本郷君は不思議そうな顔をして僕を見ていた。  原色でけばけばしく装飾されたファーストフード店の壁と、白々しいほど明るいLED電気。目の前には冷めかけたポテトと、人口着色料で毒々しいくらい鮮やかなオレンジジュース。僕の口走った言葉と相まって、この場の全てが陳腐で馬鹿らしく思える。 ―――なに言ってるんだろう、僕。 「あの…………なんでもありません。変なこと言ってごめんなさい。」  気まずくなってしまった空気をなんとかしたくて謝ってみると、白金君がぽつりと言った。 「変なことかな?」 「え……?」  白金君は紙ナプキンで手を拭き、柔らかく笑った。 「俺は、誰かをちゃんと好きになれるってすごく大事なことだと思うよ。」  てっきり馬鹿にされるかと思っていたのに、白金君は笑うどころかちゃんと答えてくれた。本郷君はなにも言わなかったけれど、彼も僕の言葉を嘲るような素振りは全く見せない。ピアスやアクセサリーをたくさんつけて、髪を染め、制服を着崩している「怖い人」たちのはずが、彼らは僕の学校の同級生の誰よりも良識的に思えた。    白金君は僕の方に体を向け、顔を覗き込んでくる。 「もう一度聞くね。その顔の怪我とか手首の傷はどうしたの?」  穏やかな白金君の声に背中を押されるようにして、僕は口を開いた。 「学校でいじめられてるんです。」 ―――あ、 こんなに簡単に言葉にできちゃうものなんだ。  そのことに気が付くと、僕の口はまるで堰を切ったかのように喋り出した。 「ゲイだってことがばれて、それで『気持ち悪い』って。中学生の時にも同じ理由で苛められてて、高校は家から遠いところを選んだんです。それでもいつの間にか噂が広まって、またいじめられるようになって……。しかもうちの学校男子校なので、『男漁りのためにこの学校にきたんだろう』って言われて……。殴られたり蹴られたり、そういう暴力を振るわれるのは日常茶飯事です。特別な理由がなくても目が会ったっていうだけで殴られます。白金君に声をかけたのも、やらないと殴るって脅されたからでした。」  白金君は眉間に皺を寄せて尋ねてきた。 「先生とか、親は?相談してないの?」
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