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本郷君にそう言い残してトイレの方へ歩いていってしまった白金君を恐々見ていると、本郷君がため息をついた。
「あいつ、ああ見えて正義感強いんだ。とくにいじめられてるやつとか見過ごせない性格なんだよ。」
「そ、そうですか……。僕が変な話しちゃったせいで気分悪くさせちゃいましたよね。ごめんなさい。」
「別に、気分は悪くなってない。あいつの場合はブチ切れてるだけ。」
「ぶ、ブチ切れてる?」
「『理不尽な痛み』が我慢できない性格だから。」
「は、はあ……。」
本郷君は自分の飲み物と僕の飲み物を見比べ、唐突に言う。
「交換する?」
「え?」
「それ、口の中しみるんじゃないのか。アイスティーなら少しはましだろ。まだ口つけてないから。」
「あ……あ、ありがとうございます……。」
―――本郷君も怖い人ではないみたい……というか、たぶんいい人だ。
本郷君に交換してもらったアイスティーを飲んでいると、白金君がトイレから戻ってきた。顔を洗った時に濡れたと思われる前髪をぐいっとかきあげた白金君は、さっきよりもぎこちなく笑う。なんだか無理に笑っているみたいだった。
「ごめんね、話の途中で。」
そう言いながら元の席に腰を下ろした白金君に、僕は頭を下げる。
「いえ……僕こそごめんなさい。いきなり変なこと話して。」
「嵐山が謝ることじゃないでしょ。」
きっぱりとした口調で言った白金君は、深いため息をついて頬杖をついた。
「外野の俺があれこれ言うべきじゃないのは分かってるけどさ、でも嵐山がされてることっていじめの域を超えてると思うよ。異性だろうが同性だろうがレイプはレイプ。犯罪だから。」
「そ、そうかもしれないですけど……。」
「人に言いたくないっていう気持ちも分かる。人に話して辛い思いをしたり、傷ついたりするのは嵐山だもんね。俺は泣き寝入りするべきじゃないと思うけど、決めるのは嵐山本人だし。……うーん、だけどなぁ……。」
ぐしゃぐしゃと髪をかいた白金君は本郷君に寄り掛かり、またしても深いため息をついた。
「啓一だってこんなのおかしいと思うだろ?」
寄り掛かられた本郷君はそのまま相槌を打つ。
「まあな。」
「同じ学校だったら庇ってあげられるんだけどね……。まあ、うちの学校にいじめとかするやついないけどさ。」
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