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その時、「冴」が僕の肩を抱くようにしていきなり引き寄せた。三人組は「冴」の行動に驚いて目を見開く。僕も驚きを隠せず目を丸くする。ただ一人「啓一」だけは平然としていた。というより、少し呆れているようにも見えた。
「この子には別に話があるから置いていってもらうよ。はい、じゃあ用がない人は帰ってね~。」
「冴」の言葉に三人組がざわつく。僕も予想していなかったことを急に言われたので、どう返事をしていいか分からずに反射的に首を横に振る。
「え、あの、僕は、」
「いいからい、いいから。」
「で、でも!」
僕がなおも色々と言うのを流し、「冴」は「啓一」の方を向く。
「啓一、遅刻のお詫びにご馳走してくれる気ない?」
「ない。」
ぴしゃりと言われたにも関わらず「冴」はけらけらと朗らかに笑うだけだった。
「じゃあ自腹だなぁ。なに食う?」
「なんでもいい。」
「じゃあまたハンバーガーでいいか。君もそれでいい?」
「え?ぼ、僕ですか?」
「そう。他に食べたいものあればそこでもいいけど。」
「い、いえ、ないです、その、でも、僕は……。」
「着いてこないっていう選択肢はないからね。」
「っ……。」
どうやら言葉を挟む余地はない。「冴」の中ではもう決定事項のようだ。「冴」はよく分からない人だ。人の話を聞いてはくれないけれど、威圧的というわけでもない。それに、さっきから怪我をしているところには触れないように気を使ってくれている。
―――優しい人、なのかな……?
いまいち自信が持てなかったけれど、悪い人ではないような気がしてきた。少なくとも、噂であれこれ聞いてきたイメージとはずいぶん違う。
三人組は僕だけ置いていくことを避けたそうだった。僕が余計なことを言うのを恐れているのだろう。
「余計なこと言ったらどうなるか分かるだろうな。」
そう言いたげな目でじっと僕を睨んでくる。僕はその視線を真正面から受け止めることができなくて、黙って俯いた。
「よし、行こっか!」
「冴」は三人組の視線の意味を知ってか知らずか、僕を連れてさっさと歩きだした。残された三人は呆然とした様子で、その場に立ち尽くしていた。
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