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目の前に真っ白な狐が飛び込んで来た。
白い狐と黒い蛇。その異様な光景ににいなはただ目を大きく見開くしかなかった。
「散れ」
たった一言。
狐から発せられた美しい声にモヤの塊は水が蒸発するように燻って消えた。
重苦しかった呼吸や、身体が一瞬で軽くなる。さっきまでの嫌な感じもなくなって、神社独特の神聖な空気が肺に流れ込んできた。
白い狐が徐ろにこちらを振り返る。
この狐もただの狐じゃないのは、見ただけで感じた。しかし、蛇のように嫌な感じはしなかった。
一歩、狐の前足が動いたかと思うとその姿はみるみるうちに人の姿へと変わった。
にいなはその姿に目を奪われた。
白くて長い綺麗な髪と、狐と同じような耳を頭から生やし、ふわふわな尻尾がお尻の上あたりから揺れていた。
人間とは違う美しく妖しげな容姿は、男とも女とも見えてさっきまで前足だったその手はスラリと伸びて、指先までもが造り物のようだった。
「にーなっ」
その白い狐だった狩衣に身を包んだ人ではない者は、美しい顔を限界まで緩ませて笑いかけてきた。
そして名前を呼んで、勢いよくにいなに抱きついてきたのだ。
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