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「だいたい俺、あんたみたいな狐の事知らないし」
突然、嫁なんて言われて「はい、そうですか」とは頷けない。
蛇の化け物から助けてもらった恩はあるが、それと嫁の話は別物だ。
「……にーな」
酷く落胆した顔で、ポロポロと長い睫毛を濡らして涙を流し始めた狐ににいなは慌てるしかなかった。
まさか泣かれるとは思いもしなかった。
綺麗な顔をぐちゃぐちゃにして、嗚咽をあげながら泣く狐をどうしたらいいのか分からず尻尾を撫でた。
「お前は酷い奴だ……。ずっと待っていたのにオレを忘れてしまったなんて……」
「……会ったことあるの?」
あまりにぐちゃぐちゃな顔で泣くものだから居た堪れない気持ちになった。こんなに綺麗な顔が自分の一言で崩れてしまうなんて、この狐はなんて感情豊かな生き物なんだろう。
普通の人間よりも人間らしい。
泣かれると困るけれど、その泣き顔をもう少し見てみたいと思った。
「オレの名前も忘れたのか?」
「……名前……」
哀しい顔で俯いてシクシク泣き続ける狐。
にいなはひたすら尻尾を撫で続けた。
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