思い出

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春夏秋冬 季節はめぐる その決まりは限りなく 僕はもう景色を見ることは叶わないけど だけど涙は見せないで 僕は君のスターナイト 春はあの島の桜に宿り 君を見守る 体はないけど花に宿り 君を見守る だから泣かないで笑っていてほしい ……… ヘッドフォンからは優しい歌声が流れる、菜穂はふっくらとしたピンクの蕾をつけた枝を見つめた。 『都会のせまっくるしい墓になんかいれるなよ。できればさ、俺は故郷で眠りたいからさ、そうだマイと一瞬に埋めてくれ。マイは嫌がるかもしれねえけどな。』 病気が重くなり日に日に弱っていく父親を見守った。 母は知らない、菜穂を産んでから姿を消してしまったから。 育ての親からきいた話だと母は死ぬ直前にここに来て、この島で死にたいと言ったらしい。 母の死因は知らないただ身よりもなかった母を父がここにお墓を作ったと言うことだけはきいた。 桜の木は父が母が亡くなってしばらくしてから自ら持ってきたものだという。 菜穂が島を出るときはヒョロリとした若木だったが、今はがっしりとした立派な木に成長していた。 「パパ、ママ、菜穂は結婚するよ。」 報告にきたのだ。 育ての親でもある昴との結婚を……… 桜の枝が春の臭いのする風にそっとゆれた。
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