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「物っていうのはね、大事にされると魂が宿るのよ。丁寧に手入れしてあげたり、肌身離さず持っていてあげたりすると、少しずつ宿っていくの。そして、その魂はやがて付喪神になって、大事にしてくれた人に恩返しをしたりするの」
物に魂が宿る、か。
なんとなくわかるような気もする。
俺の持ち物は、どれも使い古したものばかりだ。雑に扱うことはしないし、壊れても自分で修理する。そうやって使ってきた物には愛着が湧く。そこには、ある種の親密さがあるように思う。
確かに、そこに魂が宿っていたとしても、不思議ではないのかもしれない。
「時野さんの腕時計には、ちゃんと魂が宿ってる。私にはわかるわ。大事にしてきた証拠。でもね、あなたがこの子とお別れする必要があるなら、この子もきっとわかってくれるはずよ」
「そうれすかね……」
時野はほとんどカウンターに突っ伏しながら、顔だけママの方を向いている。
「この腕時計は、ここへ置いていきなさい。あなたは過去に囚われなくていい。前に進んでいいと思う。その代わり、この子は私に引き取らせて。この子は私が責任持って、時計の楽園に連れてってあげるから」
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