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仕事も片づいて、峰倉に連絡を入れれば、あちらも用事を済ませたところだったらしく、そのまま落ち合うことになった。
「専務、お送りしますよ」
車を回してきた人間が気を使ってそう言ってきたが、峰倉は会社の近くにいるようだったので、そのまま社に戻ってくれと馨は伝える。
早く終わった仕事。
プライベートな時間まで、部下を使うつもりも、縛り付けるつもりもなかった。
いつもより早く仕事が終わったならば、早く帰りたいと望むのが当たり前だ。
窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めながら、これから会う人間との最初の出会いを馨は思い出した。
『はじめまして、峰倉です』
どこか瞬きをすれば消えてしまいそうな、そんな儚げでぼんやりとした印象に、差し出された手を握り返すことを一瞬ためらってしまった。
最初の印象は、随分と柔和な雰囲気を持った綺麗な男。
それだった。
弱々しげではないが、どこか頼りない雰囲気を持った彼は、二度三度と顔を合わせるうちに大分印象を変えてきた。
仕事の関係から始まった付き合いは、いつからかプライベートでもよく付き合うような仲になった。
歳も近かったこともあるが、垣間見た彼の本質に、馨自身が惹かれたことが大きかったかもしれない。
二年前に彼がNYへ仕事の関係で行ってしまってからは、たまに連絡を取り合い、電話で取り留めのない話をしていたので、久しぶりに再会したにも関わらず、懐かしむ感情がなかったのはそのせいだろうと思う。
しかし、顔を合わせて酒を交えるというのはやはりどこか、心を浮き立たせる。
彼に話しを聞いてもらうことで、なにか救いを求めてるのかもしれないな。
少し感傷に浸る自分に自嘲的な笑みが浮かんでしまう。
ふと、フロントミラー越しに、ちらりと様子を伺う部下と目が合ってしまい、不気味に感じさせたかと苦笑いで返した。
部下のほうもやはり気まずかったのだろう、こちらも苦笑いを浮かべていた。
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