既視感

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「なんか言うことあるんじゃないの?」   眉を寄せた状態で目を瞑る雫は疲れ切った顔をしていた。   そんな表情をさせているのが自分であることに、猛は心底情けなさを感じた。   「…ごめん」   その言葉に籠められた意味は沢山あったが、一番は無理やりに唇を奪ったことに対して。   猛の謝罪の言葉に雫はさらに眉間の皺を深くした。   「そういうことを聞いてんじゃなくて…てか、それ何に対して?もしかしてアレのこと?」   ゆっくり瞼を上げて床に座る猛を見下ろす。  その黒い瞳の中に怒りの色が見える。   何故、謝るのかと、アレは間違いだったのかと、アレを後悔しているのかと、雫の目は訴えていた。   「しず…」   「揶揄ったの?」   焦るように名を呼ぶ猛の声は雫の静かな声にかき消された。   静かに、けれど確かににじむ怒りと悲しみが交じり合う声色。   「違う!!」   違う   そんなことあるはずがない   「じゃあ、何?」   猛を見下ろす黒い瞳は、もうなんの感情も感じられないほど深い色で、目の前の男を映していた。   その色に気圧されてしまいそうになる。   震える拳を握り締めてぐっとこらえた。   そして覚悟を決めた。  「好きだから」   ずっと言いたかった言葉。   「雫のことが好きだからキスした」   吸い込まれるような黒を目を反らすことなく見つめる。   ずっと好きだった。   この黒が、自分の幼馴染が、塚本雫が   言ってしまった。   震えは不思議と止まっていた。   「好きだよ、雫」   三度目の告白は笑って言えた。
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