47人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんか言うことあるんじゃないの?」
眉を寄せた状態で目を瞑る雫は疲れ切った顔をしていた。
そんな表情をさせているのが自分であることに、猛は心底情けなさを感じた。
「…ごめん」
その言葉に籠められた意味は沢山あったが、一番は無理やりに唇を奪ったことに対して。
猛の謝罪の言葉に雫はさらに眉間の皺を深くした。
「そういうことを聞いてんじゃなくて…てか、それ何に対して?もしかしてアレのこと?」
ゆっくり瞼を上げて床に座る猛を見下ろす。
その黒い瞳の中に怒りの色が見える。
何故、謝るのかと、アレは間違いだったのかと、アレを後悔しているのかと、雫の目は訴えていた。
「しず…」
「揶揄ったの?」
焦るように名を呼ぶ猛の声は雫の静かな声にかき消された。
静かに、けれど確かににじむ怒りと悲しみが交じり合う声色。
「違う!!」
違う
そんなことあるはずがない
「じゃあ、何?」
猛を見下ろす黒い瞳は、もうなんの感情も感じられないほど深い色で、目の前の男を映していた。
その色に気圧されてしまいそうになる。
震える拳を握り締めてぐっとこらえた。
そして覚悟を決めた。
「好きだから」
ずっと言いたかった言葉。
「雫のことが好きだからキスした」
吸い込まれるような黒を目を反らすことなく見つめる。
ずっと好きだった。
この黒が、自分の幼馴染が、塚本雫が
言ってしまった。
震えは不思議と止まっていた。
「好きだよ、雫」
三度目の告白は笑って言えた。
最初のコメントを投稿しよう!