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「ちょっとなんで私があんたの休憩に付き合わなきゃなんないのよ!!」
ガラス張りの喫煙室に響き渡った里奈の怒りの声に、先客たちは迷惑そうにその部屋を出ていってしまった。
それに引き換え怒りを向けられている張本人は、気にした様子もない。
坂口は里奈の腕をつかんだまま、自由な片方の手で器用にタバコを取り出しそれに火をつける。
煙をあさってに向け吐き出し、ようやくにらみを利かせる里奈と目を合わせた。
「一人で休憩なんてさびしいだろ?」
にっと笑う坂口の顔にむっと里奈の眉が寄る。
「…子供じゃないんだからさびしいとかキモイこといわないでよ。それより腕はなして」
ぶんと掴まれていた腕を振って坂口の腕をほどく。
思いのほか簡単に外れたそれに若干の物足りなさを感じてしまったことに、不愉快さを覚えて内心自分を叱咤する。
掴まれていた場所を自分の手でぐっと握りこむ。
「…ちょっと…何よこの手」
ちょっとした動揺を悟られまいとうつむいていた里奈の頭に乗っている男の手。
「ん?可愛いなって」
愛玩物は愛でるものだろ?
さらりと撫でられる手、それと同時に言われた言葉に里奈の顔が赤く染められていく。
「な、な、」
それは怒りによるものか、照れによるものか
薄い唇にタバコのフィルターを挟みながら、里奈の様子を面白そうに観察する坂口。
からかわれた!
かっと今度は確かな怒りを感じて里奈は坂口の手を叩き落した。
「ふざっ、」
噛み付くように坂口に文句を言おうとした刹那、坂口の視線が里奈から外れ、ガラスの向こうに移った。
それに拍子抜けしてしまい、発散されなかった怒りが里奈の中でしぼんでしまった。
「…なに?」
坂口に倣ってその視線の先を見る。
「あれ?」
坂口は困惑したままの里奈をそのままに、タバコを手早く灰皿に押し付け、さっさと喫煙室から出て行ってしまった。
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