咲き誇る花、その彩りは美しく  華やかに変わりゆく

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あたりが落ち着きを取り戻したのを見計らい、広いエントランスフロアの隅に移動した千草と真。 千草の目にはいまだ混乱の色が見えるが、先ほどよりは幾分かは落ち着いたようだった。 「……突然居なくなって悪かった」 先に口を開いたのは真。 「千草に別れを告げたあの日の前日、実は仕事で海外に行くことが決まったんだ」 「…海外…?」 考えるように視線を落とし、言葉を繰り返す千草に、真は頷く。 「そう。急な決定だった。……本当はあの日、そのことを伝えて着いてきてほしいと言うつもりだったんだ」 「…え?」 顔を上げれば、困ったような表情の真と目が合った。 「ついて来てほしかった。 そばに居てほしかった。…でも、窓際で桜の木を嬉しそうに眺める千草の横顔をみて思いとどまった。 この子の心を俺がずっと縛り付けたままでいいのかって。 …海外なんて連れて行けば、他に頼る人間も居ない場所だ。今まで以上に千草の心を自分で占めれるだろうって、邪な考えも浮かんだ。 でもそれ以上に思ったよ。 それで千草は幸せなのかって」 真と連絡が取れなくなった理由に、今までどこに居たのか、そして、何を思っていたのか。 聞きたかったことが一気に千草の耳に、頭に入ってきた。 混乱もすれども、言葉の一つ一つをしっかりと理解できた。 「良一郎も含めて、ぬるま湯につかりすぎた俺達の目を覚ましてくれる、いい機会だと思った。見て見ぬ振りをし続けた良、千草の心を欺いて縛り続けた俺、そして、気づきながらも目をつぶっていた千草。だんだんとおかしくなっていた」 お互いに不安定な心を共有していたあの時。 傷つき、傷つけてしまったあの歪な関係。 「あのままだったらきっとボロボロになってた。いつまでも続くようなことじゃなかったんだから…」 「だからって…、だからって急に、何も言わずに消えてしまうことしなくたって…!」 とても心配した。 あの日の真があまりにも儚かったから。 最悪のことも考えた。 目の前の真の姿が急に現実味を増して、千草の瞳に涙が盛り上がった。 「泣かないで」 真は千草の、水の膜を張った瞳との間を妨げる眼鏡をそっと外し、 その拍子に零れ落ちた滴を指で拭う。 「泣かないで、千草」
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