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目の前の光景に馨は目を疑った。
愛しい人と、その元恋人が抱き合っているのだ。
考える間も無かった。
気づけば走り出し、その男の腕から彼女を奪っていた。
強引で大胆な行動に、彼女も、目の前の男も驚いた。
しかし、それ以上にやった本人が一番驚いていた。
はっと気づいたときにはもう遅い。
BARで良一郎を殴りつけた以上のことだ。
何しろ、純粋な恋を自覚し臆病になって今まで手をこまねきいたのに、その相手を、感情の赴くままに自分の腕で抱きしめているのだ。
今までの二人の距離からは考えられない、距離数ゼロである。
「…ぷっ」
フロア全体が静けさに包まれていた中、その空気をぶち壊す、耐え切れないというように吹きだされた声。
その犯人は、探さずともすぐに見つかった。
今まさに腕の中からお姫様を奪われた男。
真
その人だ。
「ああ、残念。奪われちゃったよ。」
肩を震わせながら言うその台詞は、まったく残念そうには聞こえない。
今日はずっと混乱しっぱなしの千草が、漸く自分の体に巻きついている腕の持ち主に気づき、これほどまでに無い動揺を見せる。
それは動揺という言葉をはるかに超え顔を真っ赤に染め固まってしまうほどに
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