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そんな千草に、真はちょっとだけ寂しげな表情を見せ、馨と目を合わせた。
「……」
何を言わなくても伝わったのだろう。
馨は剣呑な光を目に宿したまま挑む様に真を見返す。
それにくすりと笑みを浮かべ、真は背を向けた。
「まこ…」
「千草、見つかってよかったね。それと、好きな人のことは信じてあげて」
顔だけで振り向きそう告げると、楽しそうに肩を揺らしながらその場を去っていった。
「真君…」
馨の腕の中で、去っていく真の背中を見送る切なげな千草と、去り際の真の意味深な言葉に、馨は顔をしかめた。
好きな人…?
知らず千草を抱きしめる腕に力が篭った。
「あ、せ、専務…、」
はっと気づいたように漸く慌てだす千草は、混乱、上司に対しての対応、そしてなにより焦がれた相手に抱きしめらることへの喜びとで、突き放すことも出来ず、馨の腕の中でおたおたとするばかりだ。
そんな千草を愛しげに見つめる馨は、解放してあげなければと思いつつ、もう少し堪能したいという思いを心で葛藤するが、結局、抱きしめる腕を緩めることは無い。
「眼鏡はどうした」
頭上から落ちてくる低く響く優しい声に、千草はピクリと体を跳ねさせる。
「あ…」
眼鏡が真に奪われたままだったことに気づいた千草は、ぱっと目元に手をやり困ったように、今しがた去っていった男の名前を呟いた。
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