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track.5
「自由、すぐにここのサロン行って来て。コレ地図と担当スタイリストさんの名前ね」
自由は男性マネージャーの牧に紙を渡され反射的に受け取る。
「サ、サロン……? 何しに……」
「もう向こうには伝えてあるから。担当は矢嶋さんだよ、間違えないでね。戻ったらすぐ宣材撮るからね」
自由がした質問など牧にはどうでも良かったようで話は相手からの一方通行で終わった。
指定されたサロンに着くと早速矢嶋さんが迎えてくれた。
アッシュブラウンの短髪と、垢抜けたファッションセンスを持つ笑顔が印象的な30代の男性だった。
丁寧に自由の伸び切った髪にハサミを入れながら、場を和ませるように色々と周りのスタッフも巻き込みつつ世間話をしてくれるが、今の自由の頭には何も情報として入って来なかった。
訳もわからず誰かが決めた髪型に自分は変えられていく──。鏡にはその姿がずっと映し出され続けた。
自由はそれをボンヤリと、他人の姿でも見るかのように傍観した──。
まるで──
自分なんかどこにもいないみたいに感じた────。
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