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撮影終了の合図とともに4人の身体に一気に疲労が降りてきて、ボーカルとして単独撮影が一番多かった自由は軽く目眩すら覚えていた。
パソコンの画面には見た事も無い自分たちの写真のサムネイルが所狭しと並んでいて、マネージャーとカメラマンが真剣に話し合いながら選別しているが、自分たちはどれがどう良いのか全くわからずに、ただ隣で黙ったまま立ち尽くすことしか出来なかった。
自由は漠然と思った──。
ここにはもういないのだと──。
好きな歌を好きなだけ、小さな箱の中で汗まみれで歌っていたあの時の自分たちは──
もうとっくに過去の生き物なんだと──。
自由は普段は高くて買いもしない、入りもしない有名コーヒーチェーンのカフェに行き、やたらとカタカナの長い名前の、甘ったるい飲み物を頼んで一人カウンターに座り、口を付けた。
「……これ一杯の金で牛丼大盛りが食える──」
自分は何をやっているんだろうかと、全面ガラスのカウンターから覗く外の雑踏を眺めながらひとり呆れた。
それでも普段の日常から懸け離れたことをしていないと、普段の自分に戻ってしまうと、全てが耐えきれなくなりそうで、必死に自由は慣れない自分に没頭した。
そんな中、自由は葉山に自分から会いたいと初めての連絡をした。
──誰でも良い。
バンドに──、事務所に、音楽に、関係のない人間と今は話したい気分だった──。
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