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「に、肉~~!!!」
大きな白い皿に乗せられた霜降り肉が、まるで赤い宝石のように自由には眩しく光って見えた。
ちゃんとした日本産の分厚い肉を、さらに食べ放題ではない焼肉で食べたのは何年ぶりだろうか。
自由の口元はそれはもうだらしなく緩み、幸せそうにトングを握り締め、網の上で肉を大事に育てていた。
「──太れよ、5キロ」
男はニヤリといやらしい顔で笑い、ビールを呷る。
「アッ、アホかっ! あれは事故だっ! 二度目はねぇからな!」
トングの先を男に向けて自由は必死な形相で言い放つ。
「そうかー? かわいかったぞ? 素質あるって」
「そんな素質はいらん!」
自由は焼き上がった肉をそそくさと自分の取り皿に投げ込みさっさと口に運ぶ。申し訳ない程度に男の皿にも一枚だけ肉をやる。
余程腹が減っていたのだろう、自由は育ち盛りの少年並みの見事な食いっぷりで、痩せ細った身体には似つかわず、頼んだご飯はしっかり大盛りだ。
「んぐっ……そいやアンタ、名前は?」
「あれぇ〜、気になる? 惚れた?」
「惚れるかバカッ!」
自由の口から勢い良く米粒が飛んで、勿体無いと慌てて自ら拾い集めていた。
「──誠一郎だよ」
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