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「いや名前って──まぁいいや……」
「君は篠崎自由くんでしょ?」
「ふへっ?!」
自由の齧った肉が口から危うく落ちそうになる。
「昨日名乗ってたよ、名前の通りに行かないってね」
自由は自分の名前を名乗る時、皮肉めいてそう話すことがあった。それは自分が弱っている時である証拠だ。
「…………新曲決まった」と告げる自由はお世辞にも明るい声ではなかった。
男は先程から自由が何を話そうとも表情を変えることなく、ずっと口の端を上げ薄く笑ったままだ。
「──へえ、そう。売れると良いね」
「嫌味!!」
「いやいや、本心だって。この世は売れたモン勝ちだよ」
飄々とした笑みのまま男は自由の皿に焼けた肉を入れてやる。どことなく腑に落ちない顔のまま自由は大人しく肉を口に運ぶ。
──変なヤツ。
自由は改めて男を眺めた。
常に飄々としていて、余裕で、嫌味っぽくて、何者なのかも全く謎で──。
男は素人目に見ても明らかに高そうな腕時計を着けていた。きっと身につけている物全てが自分とは全くの桁違いなんだろうと男を纏う空気で感じ取る。
更に自由が一番腹が立つことがあり、それは男が普通にイケメンという事実だ──。
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