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今後の目標を明確に定めてから、まず俺は情報収集をしようと思った。
のだが……かといってルフィナにいろいろと質問するのは悪手である。
なにしろ、俺は寡黙なキャラだと勘違いされているからだ。
急に態度を一変させて、こちらから積極的に話しかけるのは不自然だろう。
それに俺が知りたいことには、この世界の常識も含まれている。
なぜそんな当たり前のことを訊くのか、と怪しまれたくはない。
だから俺は、ルフィナから話しかけてこない限り無言を貫いた。
はやる気持ちを押さえつけて、好機が訪れるのを静かに待った。
そして屋敷を出てから、俺の体感で二時間ほどが経過したとき。
人気のない川沿いの道端で、ルフィナは荷馬車を停めた。
「一旦ここで休むぞ」
「……ああ」
やっと休憩のようだ。
ずっと座りっぱなしで疲れていたからありがたい。
最初に危惧した通り、尻へのダメージもあるしな。
「私は少し馬の世話をするが、そちらはどうする?」
「えっと、そうだな……」
ルフィナに訊かれて、俺は少し考えた。
気持ち的には普通に体を休めたいが、ここにきてようやく自由な時間を得たんだ。
それを無為に過ごすのはもったいない。
なので、
「師匠を手伝わなくてもいいなら、いまのうちに自分の荷物を確認してくる」
「そうか。だが、そう長くは休まないつもりだ。あまり荷台を散らかすなよ?」
「善処する」
俺はそれだけ言うと、すぐに荷馬車の後ろに回み、荷台へと乗り込んだ。
多くの木箱が左右にずらりと並んでいる。
雨よけの幌に覆われて、荷台内はちょっと薄暗いけど、視界に困るほどではない。
とりあえず入ってすぐの木箱を見てみると、蓋の上に『衣類』という文字があった。
ご丁寧なことに、なにが入っているのかをあらかじめ書いてくれているらしい。
他には『食器』や『寝具』、それに『武具』なんて物まで置いてある。
だが、もっとも俺の興味を惹いたのは『学用品』と書かれた小さな木箱だった。
まずはコレから確認しようと思い、さっそく蓋を開けてみる。
すると小箱の中には、羽ペンや白紙の羊皮紙などがいっぱいに詰め込まれていた。
まさしく勉強に使いそうな物ばかりである。
なら、なにか教科書のようなものだって――
……あった!
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