第二話 『常識の勉強と魔法の練習』

3/16
前へ
/96ページ
次へ
 箱のうちを軽く物色してみたところ、羊皮紙の下に二冊の本が隠れていた。  期待通りの展開に、思わず口もとが緩む。  本とは、すなわち知識の塊。  厚みはそれほどないが、これを読めば異世界のなにかしらは学べるはず。  ただ、休憩時間はあまりないので急がないといけない。  荷馬車に激しく揺られながら読書するのはキツイからな。  そんなことをすれば絶対に酔う。  てなわけで、俺は小箱から手早く本を取り出すと、すぐさまそれを開いて読み進めていく。  そして。  もともと速読系の読書家だったことに加え、本のページ数も少なかったおかげで、俺はさほど時間を要さず二冊とも読了した。  一応、その内容を俺なりにまとめてみる。   一冊目は『ダミア王国の歴史』という本。  著者の文法的に、おそらくは子供向けに作られた教養書だ。  そこには題名通り、ダミア王国という大きな国のなりたちがつづられていた。  また、これまで俺が渇望していた《常識的な情報》も随所に記されてあった。  たとえば『ダミア王国はいま、アスティア最大の国になりつつある』という冒頭の一文。  これで、この世界の名前が《アスティア》であると判明した。  他にも分かったことはある。  そのなかでも俺がとりわけ驚いたのは、アスティアに複数の人型種族が存在していることだ。  人間、魔族、獣人、竜人、巨人、エルフ、ドワーフなど。  これで全部とは限らないが、少なくとも文中にはこの七種族が登場した。  おまけに人間と魔族は、だいたい二百年の間隔で、過去に何度も大きな戦争を繰り返しているとのこと。  もちろん魔族を率いるのは魔王であり、相対する人間は勇者を旗印としていた。  そしていずれの戦いも、最終的に勇者が魔王を斃すことで人間側が勝利している。  だけど、たとえ戦争が終わっても、その爪痕は簡単には消え去らない。  特に四度目の大戦――第四次人魔大戦で、人間族は甚大な被害を受けた。  当時の人口の四割を失い、それまで長く君臨していた大国が滅亡したのだ。  しかしそんな折り、当代の勇者が行動を起こした。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

322人が本棚に入れています
本棚に追加