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さっきレイのサボり疑惑について考えていたばかりなのに。
どんだけ大根役者なんだよ、俺のアホ……。
とにかく、なにか言い訳しないと!
「あ、あれだ。心境の変化ってやつだ。俺はもう貴族じゃなくなったからな」
「………………」
「あ、あと親の庇護も失ったし、怠けてばかりだといずれ苦労するだろう?」
「……………………」
い、いかん……。
依然、ルフィナの視線は突き刺さったままだ。
俺の胸中を見透かそうとしているようで怖い。
焦る。
「も、もしかしてもう出発する気だったのか? だ、だったら、魔法を試すのは次の機会に……」
「よく喋るな。さきほどまでとは大違いだ」
「!」
「それに向こう見ずではない思考、諦めがよくて素直な性格、これらも侯爵の話と大きく異なる」
「!!」
ルフィナの口からこぼれたセリフに、俺の顔からすぅっと血の気が失せていく。
またもや墓穴を掘ってしまい、頭の中がパニック状態となり二の句が継げない。
そんな俺の様を見て、
「なんて顔をしている。私は褒めているのだぞ?」
ルフィナはやれやれと首を振った。
「新たな環境に適応しようとする姿勢は大切だ。没落貴族などには過去の栄光にすがり身を滅ぼす者も多いのでな。その心意気をゆめゆめ忘れるな」
「そ、それじゃあ……」
「本当はそろそろ出発するつもりでいたが、いいだろう、貴様のために少しだけ時間を遅らせてやる」
おお……よかった。
どうにかこうにか誤魔化せたぞ。
そのうえ俺の評価まで上がった。
完全にたなぼた。嬉しい誤算だ。
俺という人間は、誰にも肯定されないものだと勝手に思い込んでいたけど、ルフィナからお褒めの言葉をいただけてほんのり気持ちが楽になった。
「わかった。感謝する」
俺はホッと胸を撫で下ろすと、短くお礼を述べてその場をあとにした。
魔法が使えるか否かの検証なので、念のため荷馬車から離れた位置まで歩いていく。
魔法の失敗や誤爆とかで、荷馬車やルフィナを巻き込んでしまう恐れがあるからな。
と、その途中で。
「たしか侯爵は、レイには感謝の心がないとも言っていたのだが……」
という小さな声が、風に乗って聞こえたような気がした。
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