第二話 『常識の勉強と魔法の練習』

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 ひとまず俺は、魔法言語を舌に馴染ませることにした。  詠唱文を短く区切りつつ、ゆっくりと読み上げていく。 「原初の素、ささやかなる、安しょ――」  失敗したら、リスタート。 「原初の素、ささやかなる、安息のとみょ――」  何回も繰り返し、口を動かし続ける。  そして数十回目でついに、 「原初の素、ささやか、なる、安息の、灯火よ、我が求めに、応じ、たまえ……ミニ、フレイム」  途切れ途切れだが、一応は最後まで詠唱することができた。  今回は魔法式を演算していないので、火は発生しないけどな。  それでも、身体に血液が激しく駆け巡るような感触があった。  たぶん、いまの詠唱により俺の魔力が流動しているのだろう。  詠唱は魔力を操るためのキーワードだ。  魔法式の演算がなくてもその効果は発揮される。  なにはともあれ、この調子で練習していこう。  もっと流暢に詠唱ができるまで頑張らないと。  そうして――  俺は憑かれたように詠唱文を唱え続けた。  そのたび、俺の詠唱に呼応して魔力が規則的に流れ動く。  遅まきながらに気づいたが、どうも魔力の移動は詠唱と連動しているようだ。  俺が声を発するのと同じタイミングで魔力が動き始める。  でも、俺の滑舌が甘いせいで魔力はスムーズに流れてくれない。  ちょっとでも詠唱につっかえると、そのつど魔力の進行が停止する。  未熟なお前には従えないよと言わんばかりで、正直もどかしい。  魔力が宿るこの体は借りものだが、現在の(あるじ)は間違いなく俺である。  己のうちにあるチカラを自由にできないというのは結構イラつく。  もっと、こう、融通が利かないもんかねえ……。  俺は心の中でそう愚痴りながらまた詠唱を始める。  しかし……。 「原初のひょ――」  雑念を抱いていたせいか、はやばやと噛んでしまった。  それに合わせて、初動段階の魔力までピタリと止まる。
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