第二話 『常識の勉強と魔法の練習』

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 ああー、腹立つなオイ!  意思に反していちいち止まんなよ。  俺の体の一部みたいなもんなのに!  などと憤り、俺はヤケクソ気味に体内の魔力へ意識を向けた。  ぎゅっと目をつむり、気合でなんとかコレを動かそうとする。  もちろん、それが無駄な足掻きだということは承知のうえ。  普通の人間は魔力に直接干渉できない。  それゆえ、詠唱という手段が存在する。  と、入門書にはそう書かれていた。  だけど、無意味だと分かっていても我慢できなかった。  これは、たんなる八つ当たりだ。  荒んだ気持ちを切り替えるための儀式みたいなものだ。  非合理的だろうと関係ない。  少しでも俺のストレスが解消できればそれでよかった。  ところが―― 「…………えっ」  俺の予想を裏切り、なぜか魔力が反応を示した。  ほんの一瞬だけ、詠唱なしで魔力が動いたのだ。  ……なんで? と、俺は困惑する。  完全に虚をつかれたかたちだった。  まさかの結果すぎてにわかには信じられない。  なのでもう一度、俺は同じように試してみた。  再び自分の魔力に意識を向けて集中する。  某忍者マンガの主人公がチャクラを練るようなイメージで。  強く両目を閉じ、眉間にしわを寄せて「ぐぬぬ」と気張る。  すると――やはり成功した。  俺の意図通り、ほんのり熱い感覚が体中を巡っていく。  しかも詠唱時より、円滑に流れているような気もする。  加えて、魔力の進行方向すらも思うがままに変更できた。  右へ進めようとしたら右に、左へ進めようとしたら左に。  と、そんな感じで、完璧に俺の管理下へと置かれている。  これなら……無詠唱で初級魔法を発動させられるかもしれない。  詠唱による魔力の循環ルートを再現できれば理論上は可能なはずだ。  なんてこった……。  図らずも魔法の裏ワザを発見してしまった。  ほんと、ここまでの苦労はなんだったのか。  気合で魔力が動くなら、入門書にそう書いとけよな。  なにが、普通の人間は魔力に直接干渉できないだよ。  ウソばっかじゃねえか。 「………………、」  …………いや、違うか。  入門書の内容はなにも間違っていない。  著者のアルメアさんは正しく表記している。
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