第二話 『常識の勉強と魔法の練習』

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 まあ、幸運にも火の温度が低かったおかげで助かったがな。  たとえるなら、ぬるいお湯に指をつけているような感覚だ。  痛みなどはなく、逆に火から伝わる温かさが心地よいほど。  赤々と揺らめいてはいるが、これではなにも燃やせはしまい。  そう考えたところで、俺の中にちょっとした好奇心が芽生えた。  火炙りにされても焼けない、というシュールな光景を見てみたい。  そんな欲求に突き動かされて、俺はつい服の袖に指の火を当てる。  はたから見れば危ない火遊びに映るだろうが大丈夫。  皮膚に触れても『温かい』で済む程度の熱なんだし。  耐火素材でなくても、燃焼することなど絶対にない。  ――と、思っていた時期が俺にもありました。   「ちょっ!?」  指先の火が触れた直後――なんと服の左袖が燃え始めた。  相変わらず無痛ではあるけど、視覚的な衝撃はなかなかだ。 「やばっ、やばっ……!」  俺は入門書をその場に落とし、近くの川へ慌てて駆け寄ると、水の中へ左腕を突っ込んだ。  じゅっ、と火に接して水が蒸発する音が聞こえる。  その音だけで、腕にまとわりつく火が高温なのだと察せられた。  まさか、俺の体感と実際の温度に大きな隔たりがあったのか!?  その後―― 「なんとか消えたか……」  俺は無事に消火できたことを確認すると、水面から腕を抜いて被害の把握に努めた。  左腕は見事なまでにノーダメージだ。  白く張りのある健康的な肌のまま、やけどのやの字も見当たらない。  しかし、上着のほうはボロボロだった。  左袖の部分が真っ黒に焼け焦げている。  この下にあった皮膚が無傷なことに不自然さを覚えるほどだ。  ……ていうか、ぶっちゃけると、ひとつだけ心当たりがある。  たぶん、この結果は俺の《耐性》が働いたせいじゃないか?  そう考えると納得できる部分が多い。  耐性によって俺は熱さに鈍感となり、そのせいで火の温度を誤認して服が燃えた。  だが、同じく耐性の影響で肉体の不燃性が高まっており、火傷だけはせずに済んだ。  ――うん、これで辻褄(つじつま)が合う。
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